伊那谷の井月

夏に伊那谷をかすめることになったのですが、思い出すのは井上井月(せいげつ)。
つげ義春さんの作品「無能の人」に井月の話が出てきます。

無能の人・日の戯れ (新潮文庫)

無能の人・日の戯れ (新潮文庫)

本業の漫画家を辞め、思いつきのように手を染めた中古カメラの売買も上手くいかず、最後には売れるはずもない多摩川の河原の石を売る主人公。俳句の知識と詠みに優れながらも、次第にみすぼらしい姿になっていき「乞食井月」と呼ばれ悪童に石を投げられても決して怒りを見せることなく、世間から疎まれ伊那を放浪しながらも名句を残した井月を、主人公の知人の古本屋(高遠の出身)の姿をなぞるよう描かれます。
多摩川中流の河原で拾った石を売る主人公が、普段から役立たずで社会から捨てられたように生きる古本屋にすすめられた井月の本を読みながら、古本屋と井月を馬鹿だな、と思う。そんなとことんどうしようもない状況からつげ義春さんの「人は実際はそれほど大した事は無い」という鋭い視点が感じられ、自分の未熟さを割とそっとすくってくれるのでついついまた夕べ目を通してしまいました。
そこから漠然と何かやろう、という気持ちがふっと湧いてくる、そんな作品です。
なんだか今年はつげ義春さんの作品巡礼の旅といった感じでレースに参加しているような気がしますね。伊豆・湯宿・奥多摩‥‥‥そして伊那。